2025年6月
バベシア病はマダニによって媒介される病気のひとつです。
日本では主に西日本で見られることが多いとされてきましたが、近年では、神奈川県など関東地方に住む犬でも感染が確認されるようになっています。そのため、心配されている飼い主様もいらっしゃるかもしれません。
バベシア病に感染すると、犬は貧血などの症状を引き起こし、体調を大きく崩してしまうことがあります。しかし、正しい知識を持ち、日頃から予防対策を行うことで、感染のリスクをぐっと抑えることが可能です。
そこで今回は、特に関東地方にお住まいの飼い主様に向けて、バベシア病の原因や症状、そして大切な愛犬を守るための予防法についてご紹介いたします。
バベシア病とは、「バベシア」と呼ばれる原虫(目に見えないほど小さな寄生生物)によって引き起こされる感染症です。
この原虫は自然界では主にマダニ、特に「フタトゲチマダニ」と呼ばれる種類のマダニが保有しています。そして、マダニが犬の皮膚に噛みついて吸血する際に、バベシアが犬の体内に侵入し、感染が成立します。
また、まれではありますが、輸血やケンカ(闘犬)による出血の接触を通して感染することもあると報告されています。
体内に入ったバベシアは、犬の赤血球の中に入り込んで増殖しながら赤血球を破壊してしまいます。その結果、溶血(赤血球が壊れて減ってしまう状態)が起こり、貧血などの体調不良を引き起こす原因となります。
なお、バベシアは犬にのみ感染する原虫のため、人にうつることはありません。
しかし、マダニはバベシア以外にもさまざまな病原体を運ぶ可能性があるため、愛犬とともに過ごす飼い主様もマダニ対策には十分注意が必要です。
これまでバベシア病は、西日本に多く見られる病気として知られていました。
しかし近年では、関東地方でも感染が確認されるケースが報告されており、注意が必要な状況になっています。
その背景には、気候の変化にともなうマダニの生息域の拡大や、交通の発達による人や動物の移動の増加が関係していると考えられています。
また、マダニは春から夏にかけて特に活発に活動するため、この季節は特に注意したい時期です。
そのため、関東にお住まいの飼い主様も、次のような点を意識して日常の中で気をつけていただくことが大切です。
バベシア病を発症すると、以下のような症状が現れることがあります。
さらに、重症化すると多臓器不全に進行し、急に倒れてしまったり、動けなくなったりするケースも報告されています。
このような場合は、一刻も早く動物病院を受診することが大切です。
また、これらの症状が見られた際に、愛犬の体にマダニが付着しているかどうかも、診断の重要なヒントになります。
もしマダニを見つけた場合は、無理に取り除こうとせず、そのままの状態で動物病院で診てもらうようにしましょう。
無理に引き抜くと、マダニの一部が皮膚に残ってしまい、炎症や感染の原因になることがあります。
バベシア病が疑われる場合、診断にはいくつかの検査が必要になります。
具体的には、以下のような方法で調べていきます。
診断が確定したら、抗原虫薬(原虫に効果のあるお薬)を使って治療を行います。
多くの場合、治療を始めて数日以内に貧血などの症状が改善してきますが、重症の場合は治療が長引くこともあります。
また、重度の貧血がある場合は命にかかわることもあるため、輸血が必要になるケースもあります。
治療の流れとしては、まずバベシア原虫を減らすための抗原虫薬を使って症状の改善(寛解)を目指します。その後、寛解を維持し、再発を防ぐために抗生物質を長期間投与する治療法(プロトコール)がとられることもあります。
バベシア病は、適切な治療を行っても体内から完全に原虫を排除することが難しい感染症です。そのため、いったん症状が落ち着いても、再発する可能性があることを理解しておくことが大切です。
特に、強いストレスがかかったときや、免疫抑制剤の使用、脾臓を摘出した場合などには、再び症状が現れるリスクが高まると言われています。
そのため、治療後も油断せず、定期的な血液検査や体調チェックを続けていくことが、愛犬の健康を守るうえでとても重要です。
また、幸運にも回復した症例の約半分は1年以上にわたり腎機能が低下しているとの報告もあり、定期的な検診が必要になります。
バベシア病は、マダニを介して感染するため、マダニ対策をしっかり行うことが何よりも大切です。
愛犬を守るために、日常生活の中で以下のような予防策を心がけましょう。
マダニの寄生を防ぐには、駆除薬を継続的に使うことが基本です。
特に、バベシア病の原因となるバベシア原虫が犬の体内に入るためには、マダニが2〜3日以上吸血し続ける必要があるとされているため、定期的継続的なダニの寄生予防が重要です。
マダニ駆除薬には、スポットオンタイプやチュアブルタイプ(おやつ感覚で食べられる錠剤)など、さまざまな種類がありますので、愛犬の体質や生活環境に合ったものを、獣医師と相談しながら選びましょう。
散歩から帰ったら、愛犬の体にマダニが付いていないかチェックする習慣をつけましょう。特に耳の後ろや足の付け根、お腹などはマダニが付きやすい場所です。
また、マダニは草むらや森林などに多く生息しているため、できるだけそういった場所を避けてお散歩するのが安心です。
春から秋にかけてはマダニの活動が活発になる季節なので、特にこの時期は注意を強めましょう。
症状が出る前に感染を見つけるには、定期的な健康診断がとても有効です。
血液検査などでバベシアの兆候を確認できることもありますので、年に1〜2回は動物病院でのチェックをおすすめします。
旅行や引っ越しなどで、西日本などバベシア病の多い地域から愛犬を関東へ連れてくる場合には、マダニや病原体を一緒に運んでしまうリスクがあります。
移動後は一度、動物病院で検査を受けることも検討してみてください。
バベシア病は、これまで西日本でよく見られる病気とされてきましたが、最近では関東地方でも感染例が報告されており、地域に関係なく注意が必要になってきています。
もし愛犬が感染・発症すると、貧血など体調に大きな影響を及ぼすこともありますが、日頃からマダニ対策をしっかり行い、健康管理を心がけることで、感染リスクを抑えることは十分に可能です。
当院では、マダニ予防やバベシア病に関するご相談も承っておりますので、少しでも気になることがあれば、どうぞお気軽にお声がけください。
■予防に関連する記事はこちら
<参考文献>
猪熊壽, 田井貴子, 市川康明. 犬Babesia gibsoni感染症の発生状況に関する全国アンケート調査. 日獣会誌. 65, 293-298. 2012.
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院