2023年12月
慢性腎臓病は、特に中高齢の犬や猫によくみられ、腎臓の機能が徐々に低下してしまう病気です。
腎臓とは、血液中の老廃物や毒素を尿中に排泄し、体に必要な水分やミネラル分、タンパク質などを保持するろ過フィルターの役割を果たしており、血圧や赤血球産生を調整する働きも担っています。
慢性腎臓病により腎臓の機能が低下すると、重度の脱水や尿毒症(毒素が尿中に排泄されず体内に溜まる病態)を起こし、生命を維持することが難しくなってしまいます。
慢性腎臓病においては数ヶ月にわたり徐々腎臓の機能が低下することと、腎臓の薬75%の機能が失われるまで症状が現れにくいため、早期発見は困難です。来院された際には既にかなり進行した状態であるケースも多くあります。
今回の記事では犬と猫の慢性腎臓病について解説していきます。
犬と猫の慢性腎臓病の原因は、加齢に伴う腎機能低下線維化(臓器が硬くなること)、慢性的な尿路閉塞、免疫機能、遺伝など、さまざまです。
(慢性腎臓病を超す可能性のある原因疾患の例:糸球体腎炎、アミロイドーシス、腫瘍、腎結石、腎低形成、多発性嚢胞腎、中毒など)
犬の場合は糸球体(毛細血管の塊で、老廃物をろ過する部位)の破壊が多く、猫の場合は間質(糸球体や尿細管の周囲)の障害が多いです。
しかし、実際に原因がわかるケースはあまり多くなく、ほとんどの犬や猫の慢性腎臓病の原因は不明です。慢性的な疾患を有する腎臓ではじわじわと腎機能の低下が進行し、腎臓組織の代謝機構が働かなくなった結果、慢性腎臓病の状態に陥ります。
慢性腎臓病の初期段階ではあまり症状はみられませんが、腎臓の機能が徐々に低下してくると、多飲多尿(尿量が多く、色や臭いが薄くなってきた)、脱水、食欲低下、何となく元気がない、食べているが痩せてきた等の症状を示すようになります。
病気がさらに進行すると、嘔吐や下痢などの消化器症状、重度の脱水、食欲の廃絶、体重減少、飲水量と尿量の低下、口腔潰瘍、貧血がみられるようになり、末期には尿毒症により痙攣を起こすこともあります。
慢性腎臓病は、血液検査、尿検査、エコー検査、レントゲン検査などで診断を行います。
慢性腎臓病の場合、尿素窒素(BUN)・クレアチニン・リン・カルシウム・SDMA・シスタチンCなどの数値の上昇や、電解質バランスの崩れがみられます。白血球や赤血球の値により感染や貧血の有無も確認します。
近年、腎臓病の早期発見に役立つバイオマーカーとして、犬・猫ではSDMA(対象性ジメチルアルギニン)や、犬ではシスタチンCも、腎臓病の障害を調べる指標となっています。クレアチニンよりも早く上昇が認められる点と、食餌内容や筋肉量の影響を受けにくいというのも早期診断に役立つ理由です。当院でもシニア犬・シニア猫の健康診断等の血液検査で積極的に取り入れています。
尿比重(尿の濃さ)や尿タンパク、UP/C(尿蛋白クレアチニン比)を測定し、腎機能を評価します。人間の尿比重とは異なる為、さらに犬と猫でも尿比重は異なるため、正確な比重測定のために当院では動物用を使用しています。
また慢性腎臓病は細菌性膀胱炎を併発しやすいのでそのチェックも行います。
腎内部の形態学的変化(大きさや内部構造、腫瘍はないかなど)を確認します。また、尿路閉鎖の際は尿管や尿道に詰まった結石を発見できます。
上記のような検査結果と臨床症状を基に慢性腎臓病(CKD)の病期ステージ分類を診断します。
このIRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)ステージ分類により、今後の治療の方針を検討します。
Stage1 (高窒素血症無し) | Stage2 (軽度高窒素血症) | Stage3 (中程度高窒素血症) | Stage4 (重度高窒素血症) | ||
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クレアチニン値 | 犬 | <1.4 | 1.4~2.8 | 2.9~5.0 | >5.0 |
猫 | <1.6 | 1.6~2.8 | 2.9~5.0 | >5.0 | |
SDMA値 | 犬 | <18 | 18~35 | 36~54 | >54 |
猫 | <18 | 18~25 | 26~38 | >38 | |
尿比重 | 犬 | <1.030 | |||
猫 | <1.035 | ||||
UPC比 | 犬 | 非タンパク尿<0.2、境界線0.2~0.5、タンパク尿>0.5 | |||
猫 | 非タンパク尿<0.2、境界線0.2~0.4、タンパク尿>0.4 | ||||
収縮期血圧 | 正常圧<140、境界線140~159、高血圧160~179、重度高血圧≧180 | ||||
残存腎機能 | □ | 33% | 25% | <10% | |
触診や画像診断で腎臓形態異常が見つかることもある。 | 最初にみられる「多飲多尿」の症状が起きるようになる。 | 尿毒症を発症し始め、全身性に様々な症状が出てくる。 | 重篤な臨床症状がみられる。尿毒症がさらに進行する。 |
上記のような診断方法を組み合わせて診断を進めていきます。
初期の段階では、一般的な血液検査だけでは異常を確認することは困難ですが、他の検査を併用することにより、早期に病気を発見できる可能性は高くなります。
残念ながら慢性腎臓病は一度発症すると完治できません。治療の目的は、症状を緩和させ、腎臓の負担を減らして進行を遅らせることです。対象支持療法は残存する腎機能の保存、尿毒症の緩和が目的になります。できるだけ生活の質を上げ、愛犬、愛猫が快適に過ごせるようにしていきます。
慢性腎臓病の治療では、血液中の老廃物やリンなどの蓄積をできる限り少なくするため、腎臓病用の療法食に切り替えることが推奨されています。腎疾患対応の療法食や流動食が各種メーカーから出ていますので、特に粒の大きさや味で与えやすい物を選びましょう。すぐ飽きてしまうことを前提に、ローテーションできる工夫もよいでしょう。他にもフードを温めたり、多少風味をつけ食べやすいように工夫するのもよいでしょう。
また、慢性腎臓病の場合食欲が低下していることも多いので療法食が難しいことも多く、活性炭やリン吸着剤等の内服薬やサプリメントを併用することもあります。
そして、病状の進行に伴い、脱水が重篤な場合には輸液を、血圧が高い場合には降圧剤を、尿タンパクが出ている場合は投薬や食餌療法を、貧血がみられる場合には貧血の改善薬(エリスロポエチン製剤)を、嘔吐が多いなら吐き気止め等を、食欲が低下した場合には食欲増進剤など、各症状に適した治療を行っていきます。
慢性腎臓病は治る病気ではなく、一生付き合わなくてはならない病気です。愛犬、愛猫にとっても、飼い主様にとってもストレスにならないように必要な治療・ケアを提案しています。
慢性腎臓病の明確な予防方法は無く、年齢と共にリスクが上がる病気です。定期的な健康診断を受けることで、初期段階の慢性腎臓病を早期に発見できる可能性があります。
また、日頃から水を飲む量や尿量、色や臭いをチェックすることも、慢性腎臓病の早期発見につながる可能性があります。血液検査異常より尿検査異常の方が早期に検出されますので、日頃から尿の状態を気にしてあげていれば早期発見につながります。
腎臓病の動物は【多尿】になるため、脱水しやすく補うために【多飲】になります。脱水させないことが腎臓病のケアの基本になります。水分の摂取方法を工夫して、水分を多く摂らせるケアも試してみてください。
またフードやおやつの表示をよく読んで、良質なタンパク質を適量摂取し、ナトリウムやリンの含有量の多い食品はなるべく常食させないようにしましょう(例:練り物、煮干しなど)
慢性腎臓病にかかってしまった場合には、定期的な検査を受け、各段階に合わせた適切なケアを行っていきましょう。
近年、腎臓に存在するAIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)という分泌タンパクが注目されています。これは通常免疫グロブリン(IgM)と結合していますが、急性腎障害が起きると何らかの作用によりIgMから分離して、尿細管腔に溜まって、死んだ細胞にくっついて尿中に排泄されます。
そうすると尿細管の生き残った上皮細胞が情報をキャッチして、死んだ細胞を貪食して掃除をするようです。
ヒトや犬ではこうして尿細管のつまりを改善していきますが、猫ではこのAIMとIgMの結合がとても強く、なかなか分離することができません。そのため、AIMが尿中に現れず、死んだ細胞が貪食される機会がなくなり、結果ゴミのつまりのせいで腎障害が進行してしまうと言われています。
この性質を利用して、猫にも有効なAIM製剤が開発されれば、腎疾患の進行を防げるのではと今後の研究が期待されています。
※市販でAIM含有の【総合栄養食】が販売されています。予防効果は期待できるかもしれませんが、すでに腎臓病を発症している猫に治療効果があるかはまだ不明です。腎臓病の管理の点であれば腎臓病用【療法食】を与えていただいたほうが良いと思います。
慢性腎臓病は、特に高齢の猫では3頭に1頭、犬では10頭に1頭の割合で発生する病気です。初期の段階から適切なケアを行うことで、寿命を延ばせるかもしれません。
定期的な健康診断などで早期発見を心がけましょう。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院