2024年12月
愛犬の歯磨き、うまくできていますか?嫌がってしまって、思うように磨けないこともありますよね。そんなときは無理をせず、少しずつ慣らしていくのが大切です。
ただ、もし歯石がついてしまった場合は早めにスケーリングを受けることで、愛犬の健康を守ることができます。
今回は、動物病院で麻酔をかけて行う犬のスケーリングの重要性についてお話しします。
口の中には細菌や食べかすがあり、それが歯垢となって蓄積されます。歯垢は歯磨きで取り除くことができますが、もしそのまま放置してしまうと、唾液に含まれるミネラルによって歯石に変わってしまいます。
歯石がつくと歯周病が進行し、歯の根元に膿がたまる根尖膿瘍や、鼻と口の間が貫通してしまう口鼻腔瘻など、さまざまな病気に発展する恐れがあります。
さらに、歯を失ったり、顎の骨が溶けたりすることで、食事をするのが難しくなってしまうこともあります。
最近では、歯の健康が心臓病にも関連していることがわかっており、口の中のケアが全身の健康につながることが明らかになっています。
3歳以上の犬や猫のうち、実に80%以上が歯周病を発症しているとされており、年齢を重ねるごとに発生率がさらに高まることがわかっています。
体重5kg以下の1歳未満の犬においても、90%もの割合で既に歯周病が確認され、歯を支える骨(歯槽骨)の吸収が見られるケースも報告されています。
歯磨きでは取り除けない歯石を取り除くことを「歯石除去」と呼びます。動物病院では、専門の器具を使ってこの歯石を取り除く「スケーリング」が行われます。
日本では、重度の歯周病になった場合にスケーリングが検討されることが多いですが、アメリカでは年に一回のスケーリングが推奨されており、それにより死亡リスクが減少するとされています。そのため、日本よりもスケーリングが一般的に行われています。
近年、一部の動物病院で無麻酔スケーリングが行われることがありますが、これは非常に危険な処置です。
麻酔には確かにリスクがありますが、無麻酔スケーリングにはそれ以上に多くのリスクが伴います。
無麻酔では痛みや恐怖から嫌がることが多く、歯周ポケット内の歯石を十分に除去することが困難です。器具を歯肉の中に入れる際に軽い痛みを伴うため、無麻酔では目に見える表面の歯石しか取ることができません。
一見すると歯がきれいになったように見えても、実は歯と歯茎の間にある「歯周ポケット」の奥には歯垢や歯石がそのまま残ってしまうことが多いです。そのため、口臭が改善しないばかりか、歯周病がさらに悪化してしまう恐れもあります。
歯石は細菌の塊です。無麻酔で行うと除去した歯石や細かい歯石を含んだ唾液を誤って吸い込んでしまう可能性があります。
その結果、誤嚥性肺炎を引き起こして治療が長引き、場合によっては命に関わることもあります。
麻酔をかけないで押さえて処置をするため、「口に触られたら、また痛いことがあるかも…」と感じてしまい、家庭での歯磨きが難しくなることがあります。
押さえて処置をするため、突然の動きで器具が口の中を傷つけることがあります。また、下顎の骨が折れてしまったケースも報告されているほか、小型犬では首の骨が弱いため、スケーリングが原因で首や神経を痛めるリスクもあります。
スケーリングを行う際は、まず診察でスケーリングが必要かどうかを確認します。必要と判断された場合、麻酔前に血液検査、胸部レントゲン、心電図検査などを行い、健康状態を確認します。問題がなければ施術の予約を取り、当日に再度ご来院いただきます。
当日は、まず麻酔をかけた後、必要に応じて歯科用レントゲンを撮影し、歯根や顎の骨の状態を確認することもあります。
その後、専門の器具を使って歯石を丁寧に取り除き、歯周ポケットの中までしっかりとクリーニングします。もし歯の状態が悪く、抜歯やその他の歯科処置が必要な場合は、その場で対応します。
まずは、口の中全体をしっかり洗浄し、衛生的な状態を整えます。
超音波スケーラーやハンドスケーラーを使って、歯の表面にたまった歯垢や歯石をきれいに取り除きます。
歯の根元に付着した歯垢や歯石、さらに細菌やその毒素が染み込んでしまった汚れを丁寧に除去し、歯の根元をなめらかで清潔な状態にします。
歯周ポケットに炎症が見られる場合、その部分の歯肉を掻き取り、炎症の改善を目指します。
スケーリング後の歯はざらついており、歯垢や歯石が付きやすい状態になっています。そのため、歯の表面を研磨して細かい傷を取り除き、なめらかでツヤのある歯に仕上げます。
処置後、舌や歯周ポケットに残った歯石片や汚れをしっかり洗い流し、清潔な口腔環境を保ちます。
重度の歯周病で歯がぐらついている場合や、口鼻腔瘻が見られる場合には抜歯を行います。抜歯後は、歯肉の悪い部分を取り除き、歯科用抗生剤を詰めてから、吸収糸で歯肉を縫合して穴をしっかり塞ぎます。
施術が終わった後は、麻酔から覚めるのを待ち、状態を確認してからお家に帰ることができます。
歯石を予防するためには、食後に歯磨きをすることがとても大切です。スケーリングを行っても、時間が経つと再び歯石がついてしまいます。特に犬や猫の場合、歯垢がわずか2~3日で石灰化し、歯石に変わってしまうため、日々のケアで歯垢が歯石になる前にしっかり取り除きましょう。
できれば子犬の頃から、口の中を触る練習を始めるとよいでしょう。段階を踏んで進めていくと、スムーズに慣れてくれやすくなります。各ステップを何日か続けて、次の段階に進みましょう。もし嫌がってしまったら、無理に続けず、ゆっくり進めることがポイントです。無理をすると、後々続けるのが難しくなることもありますので、愛犬のペースに合わせてケアを進めていきましょう。
各ステップが少しでもできたら、すぐにたくさん褒めて、小さなおやつなどをあげるとよいでしょう。これが、愛犬にとって歯磨きが楽しいものだと感じさせるポイントです。
①指で口の中を軽く一瞬触る
②指で歯肉を優しくマッサージする
③ガーゼを巻いた指で口の中を軽く触る
④指やガーゼで口の中の汚れを優しく取る
⑤歯ブラシで口の中を軽く触れる
⑥歯ブラシでの歯磨きに移行する
①歯ブラシは鉛筆を持つように持つ
②歯ブラシを横向きにして、歯肉と歯の境目に当て、小刻みに動かす
③歯肉の中の汚れを掻き出すようなイメージで磨く
愛犬の健康を守るためには、口腔ケアが欠かせません。スケーリングは、歯石を取り除き、歯や歯肉の健康を保つために非常に有効な治療法です。ただし、無麻酔で行うスケーリングは危険が伴うため、安全のためにも獣医師による麻酔下でのスケーリングを選びましょう。
また、スケーリングはあくまで歯の状態をリセットするための処置であり、日々のホームケアが健康維持の鍵となります。毎日のルーチンとして、歯磨きを習慣にすることで、愛犬の健康を守りましょう。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院