2024年08月
犬や猫は歯石が形成されるスピードが非常に早く、歯周病になりやすいため、自宅での口腔ケア、特に歯磨きが大切です。
歯石は動物病院で行う全身麻酔下の超音波スケーリング以外では取ることはできませんが、歯石になる前の歯垢は歯磨きなどで除去することができます。
今回は、自宅での口腔ケアの方法や注意点を解説します。
口腔ケアの方法のお話をする前に、なぜ自宅での口腔ケアが重要なのかご説明します。口腔ケアの目的は、歯周病の予防です。
歯周病は口の中だけの問題と思われがちですが、進行すると歯の根元の骨を溶かし、下顎骨折や口と鼻を隔てる骨を溶かして慢性的な鼻血や鼻炎を引き起こします。
また、口内の細菌が血管に入ることで敗血症を起こし、命に関わることもあります。
歯周病は放置すると歯を失うだけではなく、心臓、腎臓、肝臓などの臓器や糖尿病の悪化など全身に影響を及ぼすことが明らかにされています。
歯周病と歯石は大きな関係があり、犬や猫は歯石が溜まりやすい動物です。歯周病は歯肉にある歯周ポケット内から歯周病菌が感染することで起こりますが、歯石があると歯垢や歯周病菌の除去が難しくなります。
歯石は、口の中に残った食べかすや細菌がペースト状に集まった歯垢に、口の中のカルシウムなどが付着して石灰化したものです。歯石の表面はザラザラしているため、さらに歯垢が溜まりやすく、歯石の上に歯石が積み重なります。
歯石は非常に硬いため、動物病院でのスケーリング以外では除去できませんが、歯垢はご自宅での歯磨きで除去することが可能です。
犬や猫の場合、2〜3日で歯垢が石灰化して歯石になってしまうため、できる限り毎日、自宅で口腔ケアを行い、歯石になる前の歯垢の段階で除去してあげましょう。
自宅での口腔ケアで最も効果的なのは、歯ブラシを使ったブラッシング(歯磨き)で、正しく行えば歯周ポケット内の歯垢も掻き出せます。
歯ブラシは毛がやわらかく、毛の密度が高い、口の大きさに合った歯ブラシを使用しましょう。ヒトの小児用の歯ブラシやタフトブラシなども使用することもできます。
細かいところまで届くよう、ヘッドは前歯の2〜3本くらいの小さめのサイズがおすすめです。
歯ブラシの当て方と力加減は、自分の爪の生え際に歯ブラシを当てて確認してみましょう。爪を歯、皮膚を歯ぐきに見立てて、ブラシが少し曲がる程度の力で、爪に対して45度の角度になるように意識して当ててみてください。
また、乾いた歯ブラシでは嫌がることがあるため、水で湿らせてから使用することをおすすめします。水で湿らせることでブラシの毛が柔らかくなり、歯ぐきを傷つけにくくなり、犬や猫も痛みを感じにくくなります。
歯磨き中は歯ブラシに汚れが付着するので、こまめにすすぐようにしましょう。
歯磨きシートは指に巻いて歯垢を拭き取るもので、歯の表面の歯垢を擦り取ります。歯ブラシに慣れていない犬でも手軽に使用できるため、歯の表面の歯垢を取り除くのに便利です。
ただし、歯磨きシートでは細かい部分の歯垢や歯周ポケットには届かないため、歯磨きシートだけでのケアは不十分です。歯ブラシと併用することで、より効果的な口腔ケアが可能になります。
指サック型の歯ブラシで、手軽に歯の表面の歯垢を取り除きます。しかし、奥の方には届きにくいというデメリットもあります。
特にシリコン製のものは毛が太く、細かい部分の歯垢や歯周ポケットには届きません。
歯磨きサックは、歯ブラシや歯磨きシートと併用するとよいでしょう。
綿棒は歯ブラシよりも小さく柔らかいため、細かい隙間まで磨くことができ、歯ブラシをどうしても嫌がる犬や猫には特にお勧めです。使用する際は、必ず湿らせてからご利用ください。歯ブラシと同等レベルの摩擦力が期待できます。
また、素材によっては軸が折れやすいことがありますので、誤って飲み込まないように注意が必要です。
歯磨きガムは、食べるのに時間がかかり、よく噛むことで歯垢を落とし、口臭を減らす効果が期待できるおやつです。
歯磨きガムでだけで歯垢が完全に取れるわけではありませんが、取り組みやすい口腔ケアの方法です。また噛むことで効果を発揮するので奥歯には効果がありますが、それ以外の歯には効果が薄いです。
歯磨き後のご褒美おやつとして使用するのもおすすめです。ただし、歯磨きガムを丸呑みして窒息する事故が起きていますので、与えるときは目を離さないようにしましょう。
口腔ケア用のおもちゃは、噛んで遊ぶことで歯垢を落とす効果が期待できるアイテムです。これらのおもちゃには、ブラシや糸、ゴムなどが付いており、噛むことで歯垢を取り除きます。
歯磨きを嫌がる場合には、このようなおもちゃが特に有効です。また、歯磨きの補助としての使用や、歯磨き後のご褒美おもちゃとしても活用できます。楽しく遊びながら口腔ケアができるので、愛犬や愛猫もストレスなく健康な歯を保てます。
ただし、デンタルケアのために与えたものが歯の破折を引き起こすケースも報告されています。特にひづめが多く、次いでアキレス腱、鹿の角、デンタルガム、おもちゃ、歯ブラシ、ドッグフードが挙げられます。
硬すぎるものは破折の原因となるため、目安としては小学生が使用するハサミで切れる程度の硬さのものを選びましょう。
デンタルケア商品を選ぶ目安の一つとして「VOHC認定マーク」があり、このマークがついている商品は信頼性が高いです。
VOHC(The Veterinary Oral Health Council:米国獣医口腔衛生委員会)が歯垢・歯石の蓄積を20%以上遅らせることが示された商品を承認しています。
近年、様々なデンタルケア用品が販売されていますが、この「VOHC認定マーク」も一つの選ぶ基準としてみてください。
スケーリングは、動物病院で全身麻酔をかけ、歯に溜まった歯石や歯垢を超音波スケーラーで除去する処置です。歯石はスケーリング以外では除去できません。
この処置では、歯周ポケット内の歯周病菌まで除去することができますが、スケーリング後も歯に歯垢が付着し、再び歯石が形成されます。そのため、スケーリング後もご自宅で継続した口腔ケアが重要です。
自宅での口腔ケアをはじめる際は、ネットや本で調べた知識のみで行うのではなく、必ず獣医師に相談しましょう。
口の中や歯の状態によっては、いきなり歯ブラシを当ててしまうと強い痛みを感じ、以後、歯磨きを嫌がるようになってしまうことがあります。
また、適切ではない道具や方法で口腔ケアを行うことで、口の中を傷つけてしまうこともあります。
愛犬や愛猫にとって最適な口腔ケアをするためには、必ずはじめる前に獣医師に相談し、その子に合った方法や道具を選びましょう。
口腔ケアは継続が大切なので、犬や猫にとって楽しい時間でなければいけません。
「毎日歯磨きをしてください」と言われて気負ってしまう飼い主様も多くいらっしゃいますが、嫌がる愛犬や愛猫に無理やり歯磨きをすると、今後続けられなくなってしまうかもしれません。
無理をせず、少しずつ時間をかけて慣らしていきましょう。
このように、数日かけて少しずつステップアップしていきましょう。もし嫌がる場合は、時には前の段階に戻っても構いません。決して無理をさせず、その子の性格や状況に合わせて、ゆっくりと進めてください。
また、苦痛にならないうちに終了できるようにするため、1回に長時間行うのではなく、朝は右の奥歯、昼は左の奥歯、夜は前歯など、短時間を複数回に分けて行うとよいでしょう。
終わった後はご褒美として歯磨きガムを与えたり、口腔ケア用のおもちゃで遊ぶ時間を設けたりすることで、歯磨きをすればいいことがある=歯磨きは楽しい時間になります。
今回は、自宅での口腔ケアの重要性とその方法についてお話ししました。
私たち人間と同じように、犬や猫も口の健康が全身の健康につながるため、口腔ケアは継続することが重要です。
どの犬や猫でも初めから完璧に歯磨きをすることは難しいものです。歯磨きトレーニングについては、ぜひ当院にお気軽にご相談ください。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院