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犬のアトピー性皮膚炎について|痒みの原因の特定が大切

2024年06月

アトピー性皮膚炎

犬アトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis:CAD)は、犬に頻繁に見られる皮膚病の一つであり、痒みという強い不快感を伴います。この病気は、犬の生活の質(QOL)を大きく低下させ、生涯にわたる治療が必要となることがあります。

今回は犬のアトピー性皮膚炎について、その特徴や治療法を解説していきます。

原因

アトピー性皮膚炎は「環境抗原に対するIgE抗体が関与したアレルギー皮膚疾患」と定義されており、遺伝的素因の存在と、炎症や痒みを伴う特徴的な臨床徴候が見られる疾患とされています。

主な原因は、遺伝的な要素、環境因子、皮膚のバリア機能の低下、そして皮膚の細菌叢(皮膚に存在する微生物群)の変化など、多くの要因が複合的に関わっています。

特に、アレルゲン(ダニ、花粉、カビなど)に対する免疫反応が過剰になることが、この病気の発症に大きく関係しています。

症状

アトピー性皮膚炎を患った犬は、激しい痒みを感じるため、頻繁に体を掻いたり、舐めたりします

特に耳、顔、足先、脇の下、おなか、尻尾の根元などが痒みの出やすい場所となります。

なお、皮膚には赤みや湿疹、脱毛、傷、炎症が生じ、時には二次的な細菌感染や真菌感染を併発することもあります。

これらの症状はアトピー性皮膚炎特有のものではなく、他の皮膚疾患でも類似するため、正確な診断が必要です。

診断方法

CADの定義のように、遺伝的背景をもちながら特徴的な臨床象を生じることから、診断はまず臨床象を重視します。

具体的には以下の内容を確認します。

1.若齢より生じる痒み

通常は昼夜問わずに強い痒みが現れます。また遺伝的背景をもつことから6ヶ月齢~3歳の若齢から発症します。年齢を重ねるごとに症状が悪化することもあります。

2.左右対称性の病変

CADは痒みによる二次的な症状が主体です。皮膚症状が強い急性期は脱毛や発赤があり、慢性期には色素沈着や苔癬化(皮膚が象のように固くゴワゴワになる状態)が生じます。

左右対称性に間擦部や皮膚が動きやすい部位に病変が出ます。

特に、眼周囲、口周囲、外耳、腋窩、鼠径部、会陰部、四肢端および指間などに見られます。

3.犬種

アトピー性皮膚炎は遺伝的素因があるといわれていることから、日本では下記の犬種が発症しやすいといわれています。

柴犬、シー・ズー、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、シェットランド・シープドッグ、アイリッシュ・セッター、ダルメシアン、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ラサ・アプソ、ワイヤーヘアード・フォックス・テリア、ボストン・テリア、スコティッシュ・テリア、ミニチュア・シュナウザー、など

4.その他(鑑別疾患)

アトピー性皮膚炎の診断は、まずは症状と飼い主様からの詳細な情報をもとに、アトピー性皮膚炎と似た症状を引き起こす、外部寄生虫症(ノミやダニの感染)、膿皮症やマラセチア性皮膚炎などの皮膚感染症、食物アレルギーや接触性皮膚炎など、他のアレルギーの可能性を排除します。

具体的な診断手順としては、まず獣医師が全身の皮膚状態を慎重に観察し、必要に応じて皮膚スクレーピング(皮膚の一部を採取して顕微鏡で観察)や皮膚生検を行うことがあります。この後、除去食試験を行い食物アレルギーの関与を否定します。

また、アレルギー反応を調べるためには血液検査が有効です。これにより、犬が何に対してアレルギー反応を示しているかを特定し、その結果をもとに治療計画を立てます。

アトピー性皮膚炎は多くの要因によって引き起こされる可能性があるため、正確な診断には慎重なアプローチが必要となります

治療方法

アトピー性皮膚炎は環境因子によって生じるといわれちるので、避けることはできず、治る病気ではありません。したがって、多角的にアプローチして、症状をおさえつつ、うまく付き合っていく病気となります。

炎症の管理

治療は、痒みを抑える薬剤(ステロイド、抗ヒスタミン剤)、抗体製剤、免疫抑制剤、分子標的薬などを使用します。それぞれ治療効果の現れ方、副作用、投与方法、費用などが異なります。

アトピー性皮膚炎の特徴として、痒みが更なる痒みを引き起こす「イッチ・スクラッチ・サイクル」という現象があります。このため、治療の初期段階では、迅速に効果が現れるステロイド剤を用いて炎症の拡大を抑えます

治療は長期にわたることが多いため、定期的に診察を受けていただき、症状の変化に応じて治療計画を調整することが重要です。

スキンケア

CADは皮膚バリア機能異常により生じる疾患と考えられているため、セラミドや脂肪酸が含有された保湿などバリア機能を補正するシャンプーを実施することが多いです。

また保湿剤も併用し、特にセラミド関連物質はCADにおいて角質バリア機能改善と症状の緩和作用が報告されています。皮膚や被毛の状態や使用感に合わせて保湿剤を選択していきます。

悪化因子の除去

CADは細菌やマラセチアによる二次感染が生じる場合もあります。すなわち膿皮症やマラセチア性皮膚炎の合併があることから、抗生物質や抗真菌薬の内服投与や外用塗布、またそれらに有効なシャンプーによる洗浄を実施します。

CADの症例の中には、脂漏や発汗が生じることが多くあり、特に日本在来犬種以外では脂漏を生じやすく、逆に柴犬では発汗を生じやすいと言われています。

また、皮膚の健康を維持するために低刺激シャンプーや皮膚ケア製品の使用、必要に応じてサプリメントの投与なども併用、オメガ脂肪酸などを豊富に含んだフードを使用することもあります。

特にω-6、ω-3の必須脂肪酸は皮膚バリアの維持や抗炎症効果、ビタミンEは抗酸化成分の減少が報告されているため、CADの症状の緩和が期待できます。

予防法やご家庭での注意点

アトピー性皮膚炎は完全に予防することはできませんが、早期発見と適切なケアが重要です。

定期的な健康診断、皮膚の健康を維持するための適切な食事やスキンケア、ストレスを最小限に抑えるための環境整備が推奨されます。

CADでは環境アレルゲンの一つであるハウスダストマイトが要因となることが多く、生活環境への配慮としてこまめな室内の清掃や空気清浄機などの活用、洋服の着用等により環境中のアレルゲンとの接触の回避も有効です。

ヒトのアトピー性皮膚炎において、ストレス環境下においては嗜癖的掻爬と呼ばれる精神的要因による掻き動作が認められることもあります。

犬においても同様にフラストレーションからくる自傷行動が認められる症例でそのリスクが高いと考えられます。精神的要因がCADの悪化要因のなる犬では、散歩や適度な運動、おもちゃなどを使った気分転換などでストレスケアを行うことも重要です。

また、アレルギー症状が見られた場合には、速やかに獣医師の診察を受けることが大切です。

まとめ

アトピー性皮膚炎は完治することは難しく、多くの子達で生涯にわたり治療が必要になります。犬の生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす可能性があるため、正確な診断と適切な治療、また飼い主様にアトピー性皮膚炎に関してご理解いただき、継続的なケアが重要です。上手にアトピー性皮膚炎とつき合っていく方法を一緒に考えていきたいと考えています。

愛犬の日頃から皮膚の状態を観察し、異常があれば早めに動物病院を受診しましょう。

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