2025年9月
犬や猫の目が白く濁って見えると、多くの飼い主様が「白内障ではないか?」と心配されます。
実際にペットの目の病気は珍しくなく、進行すると視力低下を招きます。
ただし、よく似た加齢による変化として「核硬化症」というものもあり、外見だけで判断するのは困難です。
今回の記事では犬や猫にみられる白内障と核硬化症の基礎知識や生活の工夫について詳しく解説します。
白内障とは、目の中にある「水晶体(すいしょうたい)」が白く濁る病気です。
水晶体はカメラでいうレンズのような役割をもち、透明な状態で光を網膜に届けています。この部分が濁ることで光が十分に届かず、視力が低下していきます。
初期段階では軽い視覚障害のみで気づきにくいこともありますが、進行すると失明に至る恐れもあるため、注意が必要です。
白内障の原因としては加齢が最も多いですが、犬では糖尿病に合併する糖尿病性白内障が多く、猫ではぶどう膜炎に続発する場合もあります。
ぶどう膜炎とは、白く濁った水晶体内容が目の中へ漏れ出し、ぶどう膜(虹彩や毛様体)に炎症を起こします(水晶体起因性ぶどう膜炎)。さらにぶどう膜炎に続発して、緑内障を発症することもあるのです。
他にも、外傷や代謝異常、遺伝が関与している可能性があります。
いったん発症すると、眼球内の水晶体タンパク質が不可逆的な変化を受けて不透明化するので、自然に回復することはなく、進行を遅らせるなど視力の維持を目指した治療が必要です。
白内障とよく混同されるのが「核硬化症」です。核硬化症は加齢にともなって水晶体が硬くなり、中心部がうっすら白く濁って見える状態です。これは病気ではなく、視力は大きく悪化しません。視覚を失うことはないため、白内障とは区別されます。
一方で「白内障」は水晶体全体が白く濁り、進行により視力が悪化します。
「核硬化症」と「白内障」は外見では区別がつきにくいため、獣医師による検査が欠かせません。
飼い主様の判断により、市販のサプリなどで様子をみるだけでは、治療のタイミングを逃してしまう危険があります。
実際にインターネット上でも犬用の白内障治療の商品が個人購入できます。しかしWEBサイトの記載があるような「混濁した水晶体そのものが再び改善して透明化する」という宣伝は疑った方が良いでしょう。
そのような高額商品の使用よりも、むしろ定期的な来院で進行具合をモニターすることが重要です。
白内障の症状は見た目の変化だけでなく、以下のような日常生活の行動や様子にも表れます。
糖尿病など基礎疾患をもつ犬や猫では特に発症リスクが高いため、飼い主様は注意深く観察する必要があります。目の白さや行動の変化に気づいたら、早めの受診をおすすめします。
現在、犬や猫の白内障に対する根本的な治療法は外科手術のみとされています。
濁ってしまった水晶体を取り除き、代わりに人工のレンズを挿入することで、視力の回復が期待できます。
手術は全身麻酔下で実施され、白内障は高齢期に発症が多いため、術前の全身検査(麻酔リスク評価)も必要です。
また、そのケースや目が手術に適しているかも慎重に判断しなければなりません。
具体的には以下のような観点から治療の判断をします。
当院では飼い主様のご意向や一頭一頭に合わせて丁寧に治療プランを立てていきます。
点眼薬は、我が国でも動物用に認可されている老齢性白内障の進行予防点眼薬を処方することもありますが、あくまで補助的なものであり、「白内障の進行を遅くするための薬」です。
そして初期の白内障の段階で使用することに意味があり、白濁した水晶体を透明にすることはできません。
また、アセチルカプノシンやプロアントシアニン等の市販のサプリメントなどについても、サプリメント扱いであるため現時点では十分な科学的根拠が認められておらず、進行予防に確実な効果があるとは言い切れません。
そのため、まずは獣医師による正確な診断と、今後の方針についての相談がとても大切です。
愛犬・愛猫の視力や生活の質(QOL)を守るためには、状態に応じて適切なタイミングでの手術を検討することが重要な選択肢になります。
視力の低下は不安に感じられるかもしれませんが、愛犬や愛猫が安心して過ごせるようにできることはたくさんあります。
当院がよくお伝えするアドバイスは「模様替えをしないこと」です。
家具の配置を変えると、動物が場所を記憶できず、ぶつかりやすくなってしまいます。
まだ視力が残っているうちはしっかり学習できるので、過ごしやすい環境を早目に整えてあげましょう。
視力が落ちても動物には嗅覚や聴覚を頼りに生活する力があります。
飼い主様が安心できる環境を整えてあげることにより、愛犬・愛猫は不安を感じずに落ち着いた毎日を送れるでしょう。
犬や猫の白内障は進行すると視力を失う恐れがあり、放っておくと続発症を起こしたり、日常生活に大きな支障が出たりすることもあります。
一方で、核硬化症は加齢にともなう自然な変化で、病気ではありません。
見た目が似ていることから自己判断は難しく、対応が遅れてしまうこともあります。違和感を覚えたら、まずは動物病院での診察をご検討ください。
当院では、診断から治療、その後の生活の工夫まで、飼い主様と一緒に長く寄り添いながらサポートしてまいります。愛犬・愛猫が安心して暮らせるよう、どうぞお気軽にご相談ください。
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