2025年9月
「最近、ごはんを食べるのに時間がかかる気がする」
「いつも同じ側の歯で噛んでいるみたい」
そんなちょっとした変化に気づいた飼い主様、それは愛犬や愛猫のお口の中にトラブルが起きているサインかもしれません。
歯やお口の健康は、毎日の食事はもちろん、生活の質や寿命にも深く関わっています。
特に、歯周病や口内炎は進行すると強い痛みや食欲不振を引き起こし、全身の健康にも影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。
そこで今回は、見逃しがちな「歯周病」と「口内炎」について詳しく解説し、当院で行っている、身体への負担が少ないレーザー治療という選択肢についてもご紹介いたします。
犬や猫の口腔トラブルの中でも、特に多く見られるのが歯周病と口内炎です。
これらの病気は、見た目ではわかりにくいこともあり、気づいたときにはかなり進行しているケースも少なくありません。
犬猫の70~85%は歯周病に罹患していると報告され、体重6.5kg以下の犬は体重25kg以上の犬と比較して歯周病罹患率が5倍以上という報告もあります。
歯周病は、歯と歯ぐきの間に歯垢(プラーク)がたまり、炎症が進行していく病気です。
やがてそれが歯石となって固まり、そこにさらに歯垢の細菌が繁殖することで、歯ぐきの腫れや出血が起き、次第に他の歯周組織に炎症が波及し、最終的には歯が抜けてしまうこともあります。
口内炎は、口の中の粘膜に炎症が起きる病気で、猫に多く見られます。
「慢性潰瘍性歯肉口内炎」のように、強い痛みを伴い、なかなか治りにくいタイプもあります。
原因は不明なことが多いですが、細菌やウイルス(猫エイズ(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)、猫カリシウィルス(FCV)、猫ヘルペスウィルス(FHV))などとの関係がある場合もあり、特に猫カリシウィルス(FCV)との関わりを指摘する報告が多く、再発しやすいのが特徴です。
炎症が悪化してくると、栄養がしっかり摂れなくなって栄養不良に陥ったり、免疫力の低下を引き起こしたりすることもあります。
歯周病による炎症が拡大し、鼻炎・くしゃみの原因になったり、顎顔面疾患(外歯瘻、内歯瘻、口腔鼻腔瘻、顎骨骨折)にいたることも少なくありません。
さらに近年では、口内の細菌が血液を通じて全身に回ることで、心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)や肝臓病、腎臓病、糖尿病など、命に関わる病気のリスクが高まる可能性があるという報告もあります。
お口のトラブルは、初期にはわかりにくいことが多く、気づいたときにはすでに進行しているケースも少なくありません。
大切な愛犬・愛猫の変化を見逃さないために、次のような様子が見られたら、できるだけ早めにご相談ください。
これらの症状は、歯周病や口内炎が進行しているサインかもしれません。
どの治療が適しているかは、動物の年齢や全身状態、進行具合によって異なります。まずは診察を受けて、状態を正確に把握することが第一歩です。
「抗生剤を飲ませれば治るのでは?」と思われる飼い主様もいらっしゃるかもしれませんが、内服薬や痛み止めはあくまで一時的に症状を和らげる対処法であり、根本的な治療にはなりません。抗生剤で一時的に歯周病菌を減らして症状が改善しても、歯垢・歯石が有る限りまた歯周病菌が増床し再発します。
すでに歯石が付着している場合や、歯の根元まで炎症が進んでいる場合には、スケーリング(歯石除去)や抜歯などの物理的な処置が必要になります。
スケーリングでは、麻酔をかけたうえで専用の器具を使い、歯の表面や歯周ポケットの中にある歯石・歯垢を丁寧に取り除いていきます。
この処置によって、炎症の原因となる細菌をしっかりと除去することができます。
また、猫の慢性口内炎では、猫白血病ウイルス(FeLV)や猫エイズウイルス(FIV)、猫カリシウィルス(FCV)、猫ヘルペスウィルス(FHV)が関係しているケースもあるため、ワクチンによる予防も重要です。
ウイルス感染を防ぐことで、口腔内の炎症の悪化を抑えることにつながります。
スケーリングや抜歯は、全身麻酔が必要で、たしかに身体への負担を伴う処置ですが、つらい症状の原因を根本から取り除き、再発を防ぐためにはとても大切なステップでもあります。
大切な愛犬・愛猫が少しでも快適に過ごせるよう、必要な治療としてご理解いただければ幸いです。
高齢の犬や猫、また心臓病や腎臓病などの持病がある場合、麻酔を伴う処置に不安を感じられる飼い主様も多いかと思います。
そのようなケースで、当院がご提案できるのがレーザー治療です。
当院のレーザー治療は、お口の中に直接触れることなく、外側(ほっぺたの上から)レーザーを照射する方法です。
これにより、炎症を和らげ、痛みの軽減や治癒の促進を目指します。
ただし、レーザー治療は根本的な治療ではなく、症状を和らげるための「対症療法」です。
スケーリングや抜歯が難しい場合の代替手段や補助的な治療として活用しています。
なお、レーザー治療の導入は、相模原エリアでもまだ珍しく、当院ならではの特徴のひとつです。
※すべての症例に適応できるわけではありません。獣医師がしっかり診察したうえで、適応を判断いたします。
「すぐにスケーリングや抜歯などの処置が受けられない」「まずはお口のケアに慣れさせたい」
そう感じられる飼い主様もいらっしゃるかと思います。
もちろん、重度の歯周病や口内炎の場合は、スケーリングや抜歯といった処置が必要です。
ですが、そうした治療をスムーズに行うためにも、おうちでできるケアを少しずつ取り入れていくことはとても大切です。
・口腔内の環境を整えるサプリメントの活用
・歯みがきジェルの使用
・お口まわりを触る練習を少しずつ始める
犬や猫は、突然歯を触られることに驚いてしまう子も多いため、まずは歯ぐきやくちびるをやさしく触る練習からスタートしてみましょう。
徐々に慣れてきたら、歯みがきや本格的なケアにもつなげていけます。
また、サプリメントやジェルは、治療後の再発予防や、治療前の炎症コントロールにも役立つサポートアイテムです。
どの製品が合っているかについても、当院でご相談いただけますので、ぜひお気軽にお声がけください。
歯やお口のトラブルは、「食べる」「噛む」といった日常の当たり前の行動に関わる大切な健康問題です。
痛みや違和感があることで、愛犬・愛猫の生活の質(QOL)が大きく下がってしまうこともあります。
当院では、麻酔下でのスケーリングや抜歯といった基本的な処置に加え、身体への負担が少ないレーザー治療など、やさしい選択肢もご用意しています。
「できるだけ負担をかけたくない」「でも、今のうちにできることをしてあげたい」
そんな飼い主様の想いに寄り添いながら、その子にとって最適な治療やケアを一緒に考えていくことを大切にしています。
お口の様子で気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院