2025年12月
愛犬や愛猫が家の中のあちこちで用を足してしまって掃除が大変……。
そんな経験をされた飼い主様は決して少なくないと思います。
壁やこだわりの家具やカーテンにまでおしっこをかけられると「またやられた!」と思わずイライラしたり、「しつけがうまくいっていないのかな」と不安になったりする気持ちもよくわかります。
これらの行動は決して飼い主様のせいではありません。
犬や猫の「マーキング」や「スプレー行動」は、彼らにとってごく自然なコミュニケーション手段です。
「マーキング」や「スプレー行動」は、縄張り意識や不安のサインとして表れる行動を理解することで、飼い主様とペットの関係はもっと良いものになっていくはずです。
この記事では、ペットの「マーキング」や「スプレー行動」の本当の意味と、今日からできる対処法を獣医師の視点から楽しくわかりやすくお伝えします。
まずおさえておきたいのが、普通の「排泄」と「マーキング」の違いです。同じおしっこでも、目的がまったく異なります。
普通の排泄は、膀胱にたまった尿を出すための生理的な行為。
一方でマーキングは、自分の存在や情報を周囲に伝えるためのいわば"伝言"のような役割を持っています。
普通の排泄とは異なるマーキング行動には以下のような特徴があります。
猫の場合、「スプレー行動」と呼ばれる独特のやり方をします。
壁や家具に対して後ろ向きになり、立ったまま尻尾をピンと立てて小刻みに震わせながら、霧状に尿を噴射するのです。この姿を見かけたら、それはマーキングのサインと考えて良いでしょう。
犬の場合は、散歩中に電柱やブロック塀などで足を上げる行動が非常にわかりやすい例ですね。オス犬に多く見られますが、メス犬でも行うことがあります。
ただし、室内でのマーキングは要注意で、何らかの精神的ストレスや不安を抱えている可能性があります。普通の排泄とは異なるマーキング行動には以下のような特徴があります。
マーキング行動には、動物たちなりの大切な理由があります。
人間にとっては困った行動でも、彼らにとっては必要なコミュニケーション手段なのです。
縄張りを守り、情報を伝えるマーキングは「ここは自分の大切な場所だぞ!」というメッセージ。
野生で暮らしていた頃の本能が、今も彼らの行動に影響を与えています。
自分の臭いをつけることで安心感を得たり、他の動物に自分の存在を知らせたりしているわけです。
犬にとって散歩コースは情報の宝庫です。
他の犬が残した臭いから、性別や年齢、健康状態まで読み取っていると言われています。
犬が散歩中にしきりに鼻を動かして匂いを嗅いでいるのはこのためなんです。
そして自分もそこに臭いを残すことで、「ここを通ったよ」「私はこういう犬だよ」という情報をやり取りしているのです。
時には他の犬の臭いに「上書き」することもあります。これは優位性を示す行動とも考えられており、犬社会ならではのコミュニケーション方法なのです。
撫でたり遊んでいるときの突然のオシッコ、いわゆる“うれション”をしてしまう犬は少なくありません。特に子犬や甘えん坊な犬に良く見られます。
うれしさや楽しさのあまり興奮して膀胱括約筋が緩んでしまうことが原因です。困りものですが、喜びの証でもあるので叱らないようにしましょう。
猫は特に縄張り意識が強い動物です。自分だけの「安心できる領域」を確保することが、猫にとっての心の安定につながります。
野良猫を観察すると、同じ場所を何度も巡回し、決まった場所でスプレーしている様子が見られます。これは他の猫に対して「ここは私の場所だからね」と伝えているのです。
家猫の場合も同じで、自分の臭いに包まれた空間が安心材料になります。
特に猫同士の距離感はデリケートで、複数頭で暮らしている場合、お互いに適度な距離を保つためにマーキングを使って“境界線"を引くこともあります。
ここまでマーキングの「本能的な側面」をお伝えしてきましたが、実は環境の変化やストレスが原因でマーキングが増えることもよくあります。
本来動物はきれい好きなので、トイレ以外での生活スペースでは排泄したがりません。それでも粗相をしてしまう場合、食事や散歩の時間が不規則で排泄を我慢できなかった可能性があります。
成犬・成猫が急にオシッコを漏らすようになったら泌尿器の病気も考えられます。
その他にも不安やストレスで粗相をするようになることもあります。
以下は、マーキングを誘発するストレス要因の一例です。
犬の場合は「飼い主様の注目を引きたい」という理由で室内マーキングをすることがあります。
犬は非常に賢いので「留守番が長い」「構ってもらえる時間が減った」といった寂しさから不安になると、マーキングで飼い主様の気を引こうとするのです。
また、来客があったときや他の犬と会ったとき、興奮や不安からマーキングしてしまうケースもあります。
これは犬なりの「落ち着きたい」「自分を守りたい」というサインかもしれません。
猫は環境の変化にとても敏感です。ちょっとした模様替えでも「いつもと違う!」と不安になり、安心を取り戻すためにスプレー行動をとることがあります。
特に多頭飼育のご家庭では、猫同士の関係性がうまくいっていないとストレスが高まり、スプレー尿が頻発することもあります。「新入り猫が来た」「先住猫との相性が悪い」といった状況では特に注意が必要です。
マーキング行動だと思っていたら、実は病気による排尿異常だったというケースもよくあります。
病気を見逃さないためのポイントをご紹介します。
マーキングは通常は少量を意図的に複数箇所に分けて行います。
しかし病気の場合は我慢できずに漏らすなどトイレ以外での失敗が急に増えたり、以下のような尿トラブルが表れたりします。
膀胱炎、尿路結石、尿閉塞、腎臓病、糖尿病など、さまざまな病気で排尿の異常が起こります。特に尿閉塞は命に関わることもある緊急性の高い病気です。
「いつもとオシッコの様子が違うな……」と感じたら、早めに動物病院を受診してください。マーキングなのか病気なのか、獣医師がしっかり診断します。
マーキングやスプレー行動への対処は、大声で叱ったり叩いたり、閉じ込めたり、ごはんやおやつを減らしたりといった対応は逆効果です。かえって不安やストレスを強めてしまい、結果的にマーキングが増えることもあります。
犬や猫が「なぜそうするのか?」を理解して、環境を整えると良いでしょう。
マーキングはストレスや不安、社会的緊張など内的要因を反映する行動であり、そのメカニズムを踏まえたケアが効果的です。
猫の場合、高い場所に登れるキャットタワーを用意したり、多頭飼いの場合は「頭数+1」の数のトイレを設置したりするのもオススメです。
新しい家族やペットが来たときは、少しずつ慣れる時間を作ってあげてください。
犬や猫は、人間には気づかないような新しい物の臭いにも敏感に反応します。強い臭いの家具やたばこ、香料は刺激となることがあるため、取り入れる際は気をつけてあげましょう。
犬の場合、散歩の時間や回数を見直すとストレス解消につながります。
マーキングされた場所に臭いが残っていると、「ここはマーキングする場所」と学習されてしまいます。臭いを確実に取り除くことは、再発予防のうえでも重要です。
猫のスプレー行動は、避妊・去勢手術によって軽減されることが多くあります。性ホルモンの影響が減ることで、マーキング欲が落ち着くのです。
もちろん、手術をしてもすべてのマーキングがなくなるわけではありませんが、予防効果は期待できます。手術のタイミングなど、詳しくは獣医師にご相談ください。
お一人で解決しようとせず、動物病院や行動診療の専門家に相談するのも大切です。
プロの視点から原因を探り、その子に合った対策を一緒に考えていきましょう。
当院でも、しつけや行動に関するご相談を受け付けています。どうぞお気軽にお声がけください。
犬や猫のマーキングやスプレー行動は、飼い主様にとっては困りごとかもしれません。
でも彼らにとっては、自分の気持ちを伝える大切な"言葉"なのです。
「ここが自分の場所だよ」「ちょっと不安なんだ」「変化に戸惑っている」
――そんなメッセージを受け取って、一緒に安心できる環境を整えていくことが何より大切です。
叱るのではなく、犬や猫の気持ちを理解して、ペットが落ち着ける空間を作っていくこと。
それが飼い主様とペットの信頼関係を深める第一歩になります。
マーキング行動でお困りのときは、ぜひ一度、かやま動物病院にご相談ください。行動の理由を一緒に探りながら、飼い主様と愛犬・愛猫が笑顔で暮らせるようにサポートさせていただきます。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院