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症状からわかる犬のクッシング症候群|多飲多尿・脱毛・お腹の変化に注意

2026年2月

犬が良く水を飲むのはクッシング症候群の影響か?写真イメージ

「最近、うちの子の水を飲む量が増えた気がする」
「愛犬のお腹がぽっこりしてきた」
「毛が左右対称に抜けている」
こんな変化に気づいたことはありませんか?

今回お伝えする「クッシング症候群」は、このような症状が表れる「気づきにくい内分泌疾患」の代表格です。

この病気の厄介な点は、食欲があり健康に思えてしまうことや単なる加齢現象と見過ごされがちなことにあります。

この記事では、クッシング症候群の症状や、他の病気との見分け方、そして愛犬のQOL(生活の質)を守るための治療法までを詳しく解説します。

犬のクッシング症候群とは|ホルモンのバランスが崩れる病気

クッシング症候群は、正式名称を「副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)」といいます。

一言でいうと、腎臓のそばにある「副腎」という小さな臓器から、コルチゾール(副腎皮質ホルモン)が過剰に出続けてしまう病気です。

コルチゾールは、本来は「生きていくために絶対に欠かせない」重要なホルモンです。主に以下のような働きを担っています。

  • 糖代謝のコントロール・・・体のエネルギー源を作る
  • 免疫機能の調整・・・炎症を抑え、体を守る
  • ストレスへの対応・・・外部からの刺激から体を守る
  • 血圧の維持・・・血管の働きを安定させる

ホルモンは、ごく微量で心身のバランスを保つ「精密な指令役」です。そのため、分泌量が少しでも過剰になると、本来は助けてくれるはずの役割が裏目に出てしまい、全身に様々な異常を引き起こします。

<7歳以上のシニア犬は要注意!発症しやすい傾向>

クッシング症候群は、中高齢の犬(7歳以上)に多く見られます。
また、特にプードル、ダックスフンド、ボストンテリアなどのテリア系といった犬種で発症しやすい傾向がありますが、好発犬種は特にはありません。オスよりメスでやや多い傾向があります。

ただし「うちは雑種だから」「まだ若いから」と油断はできません。年齢や犬種に関わらず、すべての犬に発症の可能性があるため、「最近、うちの子の様子がいつもと違う」と気づいたら早めの受診を心がけましょう。

見逃されやすい症状の特徴|ゆっくり進むサイン

クッシング症候群が疑われる、被毛が薄くなり(皮膚の変化)、水をたくさん飲み(多飲多尿)、お腹がポッコリ膨らんでいる「お腹の張り」プードルのイメージ画像

クッシング症候群の症状は、数ヶ月から1年以上かけて非常にゆっくりと進行します。
そのため、「いつの間にかこうなっていた」というケースが多く、多くの方が「年をとったせいかな?」と見過ごしてしまいがちです。

以下にご紹介する症状やチェックリストを参考にしてみてください。

多飲多尿(水を飲む量とおしっこの量が増える)

最も代表的なサインです。コルチゾールが腎臓の働きを妨げるため、尿量が増え、その分喉が激しく渇くようになります。

  • 水入れがすぐ空になる
  • 夜中にトイレで起きる
  • 散歩中の尿回数が増えた
食欲増加と体重増加

コルチゾールは食欲中枢を刺激して、食欲を増大させるホルモンでもあります。満腹感を感じにくくなるため、常に食べ物を探すようになるのです。
「食欲があるのは元気な証拠」と誤解されやすいものですが、運動量が変わっていないのに太ってきた場合は注意が必要です。

  • ごはんへの執着が激しくなった
  • ゴミ箱を漁る
  • 盗み食いをするようになった
お腹がぽっこり垂れ下がる

手足の筋肉は落ちて細くなるのに、お腹だけが異常に膨らんだ独特の体型(太鼓腹)になります。
手足は細いのにお腹だけがぽっこりしている場合は、単なる肥満ではなく、クッシング症候群を疑う必要があります。

  • 腹筋が弱まり内臓を支えられず、お腹が下に垂れ下がる
  • 触ると脂肪というよりは「張っている」感じがする
  • 筋力低下で階段を登れなくなる
皮膚と被毛の変化

毛が左右対称に抜けるのも、クッシング症候群の特徴的な症状です。
これはホルモンバランスの崩れにより、皮膚の再生能力が著しく低下するためです。
皮膚が薄くなると細菌やカビが侵入しやすくなるため、皮膚炎や膿皮症などにも注意しましょう。

  • 胴体、お尻、太ももなどから毛が抜け「体だけ毛が薄い」状態になる
  • 皮膚が薄くなって血管が透ける
  • 内出血や黒ずみができやすくなる
元気がなくなる、疲れやすい

過剰なコルチゾールは全身の筋肉を分解してしまうため、足腰の力が弱まり、疲れやすくなります。また、呼吸筋の低下や腹部肥大の影響で、呼吸が苦しくなるのも特徴です。

  • 散歩中にすぐ座り込む、段差やソファへのジャンプを嫌がる
  • 寝ている時間が増え、呼んでも反応が鈍くなった
  • 暑くない時や安静時でも、舌を出して「ハァハァ」と荒い呼吸(パンティング)を繰り返す

<複数の異変は愛犬からのSOS>

「水をよく飲む」「食欲がある」「寝てばかりいる」――これらは一つひとつを見ると「老化現象」で片付けられがちです。
しかし「食欲はあるのに、お腹が出てきて、毛が抜けてきた」というように、複数の変化が重なっている場合、それは病気のSOSです。

少しでも違和感があれば「元気そうだから大丈夫」と自己判断せずに、まずは一度、獣医師にご相談ください。

犬のクッシング症候群の臨床症状と、初診時での発生頻度による分類

クッシング症候群は、グルココルチコイドの慢性的な過剰により特徴的な臨床症状を呈する「症候群」ですので、特徴的な臨床症状を確認することが大切です。

よくみられる ときにみられる 稀にみられる

・多飲
・多尿
・多食
・パンティング
・腹部膨満
・内分泌性脱毛
・肝腫大
・筋肉の虚弱
・高血圧

・沈鬱
・皮膚色素沈着
・面皰
皮膚菲薄化
・発毛が乏しい
・尿失禁
・インスリン抵抗性糖尿病

・血栓塞栓症
・靱帯断裂
・顔面神経麻痺
・偽性筋強直
・睾丸萎縮
・継続的な無発情

 

なぜ他の病気と見分けが必要?糖尿病・腎疾患との関係

クッシング症候群は、他の重篤な病気を併発しやすいという特徴があります。特に注意が必要なのが、糖尿病腎臓病です。

<クッシング症候群と糖尿病の関係>

コルチゾールが過剰になると、インスリンの働きが妨げられ、血糖値が上がりやすくなります。その結果、糖尿病を発症するリスクが高まります。

実際にクッシング症候群の犬の一部は、糖尿病を併発することがあります。逆に「糖尿病と診断された犬を詳しく調べたところ、実はクッシング症候群が隠れていた」というケースも報告されています。

多飲多尿食欲増加といった症状は、クッシング症候群でも糖尿病でも見られます
そのため、どちらが原因なのか、あるいは両方が併発しているのかを正確に診断することが、適切な治療につながります。

腎臓や肝臓の数値異常として見つかることも

クッシング症候群の犬は、血液検査で腎臓や肝臓の数値に異常が表れることがあります。

特に肝臓の数値(ALPやALT)が著しく上昇しますが、多くは肝臓そのものの病気ではなく、過剰なホルモンに刺激された結果です。

一方で腎臓には、多飲多尿による大量の尿処理という過度な負担が常にかかり続けています。この「オーバーワーク」が長引くと、将来的に回復不能な慢性腎臓病を招く恐れがあるのです。

数値の表面的な異常に惑わされず、その背後に隠れたホルモン異常を正しく見極めることが、愛犬の健康を守る鍵となります。

内分泌疾患同士の鑑別が診断精度を左右する

このように、クッシング症候群は他の内分泌疾患や臓器疾患と深く関わっています。
そのため、見た目の症状だけで判断せず、血液検査・ホルモン測定・画像診断(エコーなど)を組み合わせた総合的な評価が重要となるのです。

特に「糖尿病」や「甲状腺機能低下症」といった、他のホルモン異常と正しく見分けることが、愛犬の体に負担の少ない治療への第一歩となります。

動物病院で行う検査と診断の考え方

クッシング症候群の診断は、一回の検査で確定できるものではありません。
複数の検査を組み合わせて、総合的に、そして慎重に判断していきます。

血液検査

最初に行うのは、全身の状態を把握するための一般的な血液検査です。
ここで特に注目するのは肝臓の数値(ALP)で、この値が極端に高い場合はクッシング症候群を疑う強い根拠となります。

ただし、血液検査はあくまで「異常の手がかり」を探すためのもので、これだけで診断が確定することはありません。

ホルモン検査(刺激試験・抑制試験など)

クッシング症候群を確定診断するには、ホルモン検査が必要です。「ACTH刺激試験」や「低用量/高用量デキサメタゾン抑制試験」などの検査が代表的です。

これは、特殊な薬剤を注射して一定時間後のホルモン分泌の変化を測定するもので、実施には数時間を要することが多いため、通院の際は時間に余裕をもって受診することをおすすめします。

理想として「午前中の検査、検査前の絶食(水は与えて良い)、安静に保つこと」で、検査値に影響が出にくくなります。

超音波検査による副腎や内臓の評価

さらに、これらの結果を補完するために腹部の超音波(エコー)検査を行います。
原因となっている「副腎」の形や大きさを直接確認し、腫れや腫瘍の有無を視覚的に評価する重要なステップです。超音波検査は愛犬に痛みを感じさせることはなく身体への負担も非常に少ないため、安心して受けていただける検査です。

CT・MRI検査による下垂体の評価

下垂体性のクッシング症候群、神経症状も出ている場合は下垂体巨大腺種も疑い、CT・MRI検査により下垂体サイズの評価を行うこともあります。また、この検査には全身麻酔が必要になります。

治療と付き合い方|「治す」より「安定させる」視点

クッシング症候群は、残念ながら「お薬を飲んで元通りに治る」という病気ではありません。しかし、適切な治療によってホルモンバランスを整えれば、つらい症状を抑え、愛犬が快適に過ごせる時間を長く保つことは十分に可能です。

治療法は、病気の原因が「脳」にあるか「副腎」にあるかによって大きく2つに分かれます。

<脳下垂体が原因の場合の治療>

脳からの過剰な指令を抑えるために、内服薬(トリロスタンなど)でホルモンの分泌量をコントロールします。
多くの場合、生涯にわたる投薬が必要になりますが、体調に合わせた「適量」を見つけることで、元通りの穏やかな生活を取り戻せます
下垂体巨大腺種の場合は、下垂体に対する放射線療法や外科手術も検討されます。

副腎腫瘍が原因の場合の治療>

副腎そのものに腫瘍がある場合は、外科手術による摘出が根本的な治療となります。
ただし、副腎の周囲には太い血管が通っており、高齢犬ではリスクも伴います。
個々の年齢や体力を考慮し、手術が難しいと判断された場合は、内服薬による管理が選択されます。

定期的な血液検査による調整と日々の観察が重要

クッシング症候群の治療で最も大切なのは、投薬量の適切な調整です。
薬が効きすぎるとホルモン不足を招き、元気がなくなったり嘔吐したりと体調を崩してしまいます。逆に効きが弱いと症状は一向に改善されません。

このため、治療開始直後はこまめに血液検査を行い、その子にとってのベストな投与量へと調整していきます。

そして、薬の量を決める際には獣医師は検査数値と同じくらい、飼い主様からの情報を重視します。

検査結果が正常でも、ご自宅で「まだお水をたくさん飲む」「元気がない」といった変化があれば、それが薬の調整を判断し、併発疾患の再検討をする重要な指標になるからです。
投薬治療をしてからの臨床症状の改善や悪化、ホルモン検査結果、これらを総合的に判断して、お薬の投与量や投与回数を調節していきます。

飼い主様は日々の愛犬の観察の中で、以下のポイントを気にしてみてください。

  • 水を飲む量、尿の量
  • 食欲の変化
  • 体重の変化
  • 元気や活動量
  • 皮膚や毛の状態
  • 呼吸の様子

クッシング症候群の治療は、長く続くマラソンのようなものです。愛犬が「今日もおいしくごはんを食べて、ぐっすり眠れている」というQOL(生活の質)を維持することを何よりの目標にしましょう。

一般的に、投与量が適切であれば、治療開始後数日で多飲・多尿・多食は改善が認められます。しかし皮膚の発毛や皮膚石灰化の消失には1~3ヶ月、体型、運動機能、呼吸機能の改善には2~6ヶ月程度と長い期間が必要です。

私たち獣医師も、ご家族と一緒に歩むパートナーとして全力でサポートいたしますので、愛犬の穏やかな日常を共に守っていきましょう。

まとめ|不安な変化を感じたら、早めの相談を

クッシング症候群は、一見「食欲があって元気」に見えるため、老化や体質の変化と見過ごされやすい非常に厄介な病気です。
しかし、放置すると糖尿病や腎疾患などの命に関わる合併症を招く恐れがあるため、日常に隠れた「複数のサイン」を早く見つけることが何より重要です。

治療のゴールは、適切な投薬管理によって「苦しくない日常」を一日でも長く維持することにあります。病気とうまく付き合いながら穏やかに過ごすことは十分に可能です。
愛犬の様子に少しでも違和感を覚えたら、「年だから」と考える前に、まずは当院へお気軽にご相談ください。

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