2026年3月
朝起きたら、水のお皿が空っぽ。片付けるトイレシートが、いつもよりずっしり重い。
そんな小さな違和感を「気のせいかな」「暑さのせいかな」と見過ごしていませんか?
実はこの症状、腎臓病や糖尿病など、早めに対処したい病気のサインかもしれません。
そこで今回は、獣医師の視点から「水をよく飲む・おしっこが多い(多飲多尿)の正しい考え方」や背景に潜む可能性がある主な病気、受診すべきサインなどを解説します。
多くの飼い主様が「水をたくさん飲んでいるから、おしっこが増えているのでは?」と考えがちです。
しかし、病気が原因で起こる多飲多尿は、その順番が逆になります。
腎臓や内分泌(ホルモン)の異常などにより、体が尿を濃くできなくなったり、余分な物質を尿と一緒に排泄しようとしたりして、尿量が増えます。
尿として水分がたくさん出ていくため、体が脱水に傾きます。
失われた水分を補おうとする反応として、飲水量が増えます。
つまり「多尿が先、多飲は後」というのが、病気による多飲多尿の基本的な流れです。
「水をたくさん飲んでいるせいでおしっこが多い」と片付けてしまうと、本来の原因を見落とすことになりかねません。
犬や猫の不調をいち早く見つける手がかりとなるため、飼い主様にはぜひこの順番を理解していただければと思います。
以下は代表的な原因の例です。いずれも外見だけでは判断が難しく、血液検査やホルモン検査による確認が必要です。
腎臓の機能が低下すると、尿を濃縮する力が弱まり、薄い尿が大量に出るようになります。犬・猫ともに中高齢以降に多く見られ、初期は症状が目立ちにくいことがあります。
血液中の糖が増えると、尿に糖が排泄される際に水分も一緒に引っ張られ、尿量が増えやすくなります。体重の減少や食欲の変化を伴うこともあります。
副腎から分泌されるホルモンが過剰になることで、多尿・多飲が起こりやすくなります。
お腹が丸く膨らむ、毛が薄くなるといった外見の変化を伴う場合もあります。中高齢の犬に比較的多く見られます。
子宮内に膿がたまる病気で、発熱・体の炎症・感染をきっかけに多飲多尿が現れることがあります。
放置すると命に関わることがあるため、未避妊のメスで水をよく飲むようになった場合は早めの受診が必要です。
肝臓の病気、猫に起こる甲状腺機能亢進症、高カルシウム血症、ステロイドなどの薬の影響なども、多飲多尿の原因となることがあります。
水分を摂りすぎているように見えても、飼い主様の判断で水を減らすのは危険です。
多尿で体から失われた水分を補うために飲んでいる場合、水分を制限すると脱水が進むおそれがあります。
逆に水の飲み過ぎが病気の原因や、病気の進行に直接的につながることはありませんので、「飲み過ぎを心配して水分を制限する」ことはしなくて大丈夫です。
そして、飲水量が増える背景として、生活環境の影響も考えられます。
たとえば以下のような要因です。
水は減らさず、室温や湿度・運動量・食事内容など環境を整えたうえで、飲水量や尿の回数・色(薄さ)の変化を数日記録して確認しましょう。
体重1kgあたり、1日40~60mlがひとつの目安になります。
これを超える飲水量、目安として「1日に体重1kgあたり90ml以上」が続く場合、病気の可能性も考えられるため注意が必要です。
尿量が明らかに増えた、または薄い尿が続く場合は、環境要因だけで判断せず早めに受診することをおすすめします。
トイレのお手入れ時に「トイレシートが以前より重い」「砂の消費が増えた」といった変化から、多尿に気づけることがあります。
以下の変化が見られる場合は、速やかに動物病院へ受診してください。
尿の変化:尿量が増えた/薄い尿が続く/トイレの回数が明らかに増えた
行動の変化:粗相が増えた/トイレに間に合わないことがある
飲水の変化:以前より執着して飲む/夜間も頻繁に起きて水を飲む/一回に飲む水の量が増えた
また、多飲多尿に加えて、食欲低下や体重減少、嘔吐・下痢、元気がない(ぐったりしている)、呼吸が荒いなどが重なる場合は、背景の病気が進行している可能性もあるため、より早めの受診がおすすめです。
猫は体調の変化を表に出しにくく、普段からあまり水を飲まない動物です。
「なんとなく水をたくさん飲んでいる気がする」「水を飲む様子を見かけることが増えた」という段階でも、気になった時点で早めにご相談ください。
ウェットフードを多く与えているご家庭では、ウェットフード水分をとれてしまうので気づきにくい場合もあります。変化が目立ちにくい分、気づいたときには進行していることもあるので注意しましょう。
多飲多尿が見られたとき、動物病院では「どれくらい水を飲んでいるか」だけでなく「なぜ尿が多くなっているのか」を正しく見極めるために、段階的に検査を進めます。
まずは問診にて飼い主様から気づかれた変化を確認いたします。
以下のような内容をお伺いするので、ぜひメモやスマートフォンの記録などをご用意ください。
問診で得られた情報とあわせて、身体の中の状態を客観的に把握するための検査を行い、腎臓の濃縮機能や全身の代謝状態を調べていきます。
| 検査の種類 | 具体的なチェック項目 |
| 尿検査 | 尿比重(尿の濃さ)、尿たんぱく、尿糖、尿沈渣(細胞や結晶の有無) |
| 血液検査 | 腎臓の数値(BUN・クレアチニン・SDMA)、血糖値、電解質バランス、肝臓の数値 |
| 画像検査 | 腹部超音波(エコー)、レントゲン(腎臓・膀胱・副腎・子宮などの形や状態) |
| 追加検査 | ホルモン検査(クッシング症候群の疑いなど)、細菌培養検査(感染の疑いなど) |
これらの検査で確認したいのは「水を飲みすぎているかどうか」ではありません。
体が水を欲しがる原因(腎臓・ホルモン・血糖・感染など)や、尿を濃くできているかを調べて、多飲多尿の背景にある病気を見逃さず、早めに治療方針を決めるために行います。
多飲多尿は心配なサインではありますが、早めに受診して原因を確認できれば、治療やケアで落ち着くケースも少なくありません。
もし検査で疑わしい病気が見つかった場合は、原因に合わせて治療を進めます。脱水症状の緩和のために点滴をするケースもあります。
治療を始めたあとは、尿の濃さや血液検査の数値、体重、飲水量の変化を見ながら、お薬や食事内容を少しずつ調整していくのが一般的です。
気になる疾患が見つからない場合でも、犬や猫が無理なく水分をとれ、尿の量や濃さが安定する「体に負担の少ない状態」を目指して、生活の見直しをアドバイスします。たとえば、お部屋の温度や湿度を整える、フードに水分を足す(ウェットを取り入れる・ふやかす など)といった工夫ができます。
多飲多尿は「まず多尿が起き、のどの渇きによって多飲が続く」というのが、病気による典型的な流れです。
「水をよく飲んでいるからおしっこが多い」と考えてしまうと、本来の原因を見落とすリスクがあります。
腎臓病・糖尿病・クッシング症候群など、多飲多尿の背景に潜む病気の多くは、早期に発見・対処することで、その後の経過と予後が大きく変わります。
「気のせいかも」と感じる段階でも、検査で原因を確かめることが治療の選択肢を広げることにつながります。
水の減りが早い、トイレの回数が増えた、尿が薄くなったように感じるなどの変化に気づいたときは、どうぞお気軽に当院にご相談ください。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院