2026年6月
「ガーガー」「ガッガッ」と、ガチョウが鳴くような咳をしている。
興奮したときや散歩中に、苦しそうな咳が続く。
このような様子が見られる場合は「気管虚脱」という呼吸器の病気が関係している可能性があります。これは症状が徐々に進行し、呼吸が苦しくなることもある病気です。
今回は、気管虚脱の特徴や症状、好発犬種、治療やご自宅でできるケアについて、わかりやすく解説します。
犬の気管虚脱は、空気の通り道である気管がつぶれ、呼吸しにくくなる病気です。
気管は、鼻や口から吸った空気を肺へ運ぶ管で、気管軟骨と膜状の組織によって筒状の形が保たれています。
この軟骨や周囲の組織が弱くなると、呼吸のたびに気管がつぶれ、咳や異常な呼吸音、息苦しさが見られます。
気管が狭くなると呼吸に力が必要になり、更に気管へ負担がかかります。また、咳の刺激で炎症が起こり、その炎症が新たな咳を招く悪循環に陥ることもあります。
進行性の疾患のため、放置することは病態の悪化につながりかねません。様子見を続けるのではなく、異常に気づいたら早めに動物病院で確認するようにしましょう。
特徴的なのは「ガーガー」「ガッガッ」という乾いた大きな咳です。しばしばガチョウやアヒルの鳴き声に似ていると表現されます。
例えば、次のような場面で咳が目立つことも少なくありません。
咳のあとに「オエッ」と吐くような動きをすることもあり、その姿は嘔吐やえずきと見分けにくい場合もあります。
ただし、このような咳は気管虚脱だけに見られる症状ではありません。感染性の呼吸器疾患や気管支炎、心臓病などでも似た咳が出る可能性があるため、咳の音だけで病名を判断することは避けましょう。
気管虚脱は、犬種や年齢にかかわらず発症する可能性があります。原因については遺伝性、栄養性、神経性、炎症性などが考えられていますが未だに明らかになっていません。
しかし、気管軟骨の性質(軟骨細胞やグルコサミノグリカン等の軟骨基質の減少)や体質などが関係すると考えられており、中高齢になってから症状が目立ち始めるケースもあります。また性差はなく、猫での発症は稀です。
そして、体の構造や体質などから次のような場合は気管虚脱を発症しやすい・悪化させやすいとされています。
【小型犬】
【短頭種】
※短頭種では、気管虚脱以外の呼吸器疾患を併発していることもあるため、咳や呼吸音の変化を詳しく調べることが大切です。
【その他の特徴】
小型犬や短頭種など犬種ごとの体質に加え、年齢や持病、生活環境によっても呼吸器の症状は異なります。例えば、心臓病、肺水腫、呼吸器感染症、気管挿管歴、家庭内における喫煙者の存在、アレルギー性呼吸器疾患及び肥満が関連していると報告されています。
気になる咳や呼吸の変化があるときは、一頭一頭の状態に合わせて診療する身近なかかりつけ医として、当院へご相談ください。
気管虚脱の代表的な症状は乾いた咳です。初期には興奮時や運動時だけ咳が出て、安静にすると落ち着く場合があります。
しかし、症状が進むと咳の回数が増え、次のような変化が見られることもあります。
グレードⅠ~Ⅲ(管腔径消失25~75%)では興奮時の咳が出る程度ですが、グレードⅣ(完全虚脱:気管が完全に扁平化)では興奮時や運動時の吸気・呼気両方に異常呼吸音やチアノーゼが認められます。
気管虚脱の症状には波があり、診察時には咳が出ていないことも珍しくありません。自宅での咳の音や呼吸の様子をスマートフォンで撮影しておくと、獣医師へ状況を伝えやすくなります。
咳が続いていても、食欲や元気があると受診を迷う飼い主様もいらっしゃるかもしれません。しかし、気管虚脱は進行すると呼吸が苦しくなることがあるため、元気そうに見えても咳が続く場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
また、次のような症状は呼吸状態が悪化している可能性があります。
このようなときは、涼しく静かな環境下で興奮させずに、速やかに動物病院へ連絡してください。
犬の咳には、気管虚脱のほかにも心臓病、気管支炎、肺炎、感染症など様々な原因があります。そのため、診察では咳の音だけで判断せず、症状が出る場面や持続時間、既往歴などを確認します。
聴診では心音や呼吸音を聞き、気管や肺、心臓に異常がないかを調べます。
頸部・胸部のレントゲン検査では、気管の太さや形、肺の状態、心臓の大きさなどを確認することが可能です。
ただし、気管は呼吸に合わせて形が変化するため、通常のレントゲン検査だけでは異常を捉えにくいケースもあります。
症状や検査結果に応じて、呼吸中の気管の動きを確認するX線透視検査や内視鏡検査なども検討します。
治療方法は、気管が狭くなっている部位や程度、咳の頻度、呼吸状態、併発している病気などによって異なります。
比較的症状が軽い場合(グレードⅠ~Ⅲ)は、咳や気道の炎症を抑える薬などを用いる内科治療を中心に、体重管理や生活環境の見直しを行います。
薬の種類や使用期間は一律ではなく、診察結果を踏まえて調整していきます。
呼吸困難時の緊急初期対応には、酸素吸入、高体温になるためクーリング(20~23℃の環境)、鎮静処置、必要であればステロイド等の抗炎症治療を組み合わせて行います。
内科治療を行っても呼吸困難を繰り返す場合や、気管の狭窄が重度(グレードⅣ)の場合には、手術のほか気管内ステント留置(狭くなった気管の内側に筒状の器具を留置し、気道を広げる治療)や気管外プロテーゼを用いた外科的矯正治療が検討されることもあります。
どんな処置が適しているかは、年齢や全身状態、虚脱している範囲などを詳しく調べたうえで判断します。
気管虚脱は、咳や呼吸の負担を抑えながら長く付き合っていくこともある病気です。症状が落ち着いたあとも、獣医師の指示に従って定期的に状態を確認しましょう。
気管への負担を減らすため、散歩では首輪ではなく、胸や胴に力が分散するハーネスの使用を検討します。ただし、体格に合わないハーネスは抜けたり、歩きにくくなったりするため、適切なサイズを選んでください。
肥満があると胸や気道への負担が増えるため、食事量や運動内容を見直すことも大切です。急激な運動や激しい興奮は咳を誘発する可能性があるため、症状があるときは無理をさせないようにしましょう。
暑さや高い湿度によって呼吸が荒くなると、咳が悪化につながる恐れがあります。夏場は室温を調整し、涼しい時間帯に散歩を行うなど呼吸に負担がかかりにくい環境を整えてください。
また、たばこの煙や香りの強いスプレー、ほこりなども気道への刺激になります。犬が過ごす場所の換気や清掃を行い、刺激物をできるだけ避けることも対策のひとつです。
このようなアドバイスも当院では丁寧にいたしますので、咳を悪化させにくい生活環境や、呼吸への負担を減らす工夫についてもご相談ください。
犬のガチョウやアヒルのような咳は、気管虚脱に気づくきっかけとなる特徴的なサインです。
一度だけの咳で落ち着くこともありますが「咳を繰り返している」「以前より音が大きくなった」「散歩や興奮のたびに咳き込む」といった変化がある場合は、早めに原因を確認しましょう。
かやま動物病院では、咳が出る状況や呼吸状態を確認し、必要な検査について飼い主様へご説明しながら診療を進めています。
相模原エリア周辺で犬の咳や「ガーガー」という呼吸音が気になるときは、お気軽にご相談ください。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院