2026年4月
愛犬や愛猫の耳のにおいが気になったり、耳垢を見つけたりしたとき、「きれいに掃除してあげなきゃ」と思う飼い主様は多いのではないでしょうか。
しかし、良かれと思って行う耳掃除が、実は「やればやるほど逆効果」になってしまうケースもあります。
今回は、犬や猫の耳掃除における正しい方法や適切な頻度や注意点を獣医師の視点から分かりやすく解説します。
結論からお伝えすると、犬や猫の耳掃除に必要な頻度は一概に「週に○回」と言い切れるものではありません。
なぜなら、犬種や猫種、耳の形、皮脂の分泌量、さらには過去の外耳炎歴などによって、耳の環境は一頭一頭まったく異なるからです。
たとえば、以下のような特徴を持つ犬は、耳の中に湿気がこもりやすく、汚れや細菌がたまりやすい傾向にあります。
一方で、猫の耳は本来、犬に比べてトラブルが少なくきれいな状態を維持しやすいものです。
もし愛猫の耳に目立つほどの汚れがある場合は、単なる汚れではなく、耳ダニ(ミミヒゼンダニ)の感染や外耳炎、その他の皮膚疾患が隠れている可能性を疑わなくてはなりません。
しかし、健康な耳であれば、備わっている自浄作用によって汚れが自然と外へ押し出されます。そのため、無理に奥まで掃除する必要は一切ありません。
大切なのは回数をこなすことではなく、日々の観察です。
耳トラブルがないか、以下のポイントをチェックしてみましょう。
においや耳垢・耳周りの色の変化は、すでに耳の中でトラブルが起きているサインかもしれません。
愛犬や愛猫の耳掃除をするとき、人向けの綿棒を手に取る飼い主様もいるかと思います。
綿棒はしっかりと耳垢が絡め取れるように思えますが、実は獣医療の現場においてご家庭で綿棒を耳の奥に入れて掃除することは、原則としておすすめできません。
綿棒の先端は、一見すると汚れをかき出しているように見えて、実際には耳垢の大部分を耳道の奥へと押し込んでしまう特性があります。
奥に押し込まれた耳垢は排出されにくくなり、湿気や炎症と相まって、細菌やマラセチアが増えやすい環境を作ってしまいます。
犬・猫の耳の奥は、まっすぐではなく途中で曲がっており、皮膚も非常に薄くデリケートです。
綿棒で何度もこすってしまうと細かな傷がつき、痛みや外耳炎の原因になります。
「汚れているから毎日きれいに綿棒で掃除している」というケアが、残念ながらかえって赤みやかゆみ、においを長引かせる原因になっているケースは珍しくありません。
実際の診療現場でも、お耳のトラブルが治らずに来院された飼い主様に「今日から綿棒を使うのをやめてみましょう」とお伝えすることがよくあります。
では、ご家庭ではどこまでケアしてよいのでしょうか?
基本的には、以下のルールを守っていただければ安心です。
デリケートな犬や猫のお耳を守るためにも、このようなお耳のケアは避けましょう。
犬や猫の耳掃除では、やりすぎないことも大切なケアのひとつです。見えない奥の部分はぜひ、動物病院にお任せくださいね。
動物病院では外耳炎などの耳の病気と診断されると、耳洗浄液や点耳薬を処方することもあります。
これらは正しく使用すれば非常に高い効果を発揮し、愛犬や愛猫の不快感を速やかに取り除いてくれる心強い味方です。
しかし、お耳の状態によっては「使用を控えた方がよい」というケースも存在します。
そのため「以前もらった薬が残っているから」といって、自己判断で使い続けるのはリスクにつながります。
処方されたものは、決められたとおりに正しく、無理なく使うようにしましょう。
「入れ方が難しい」というお声も多い点耳薬について、お家でスムーズに行う手順とコツをご紹介します。
お耳の処置を嫌がってしまう子に対しては、無理に力で押さえつけると「耳の薬=痛くて怖いもの」と学習してしまい、次から触らせてくれなくなります。できるだけ短時間でサッと終える工夫が求められます。
薬を入れる前後に大好きなオヤツを与えたり、優しい声で褒めちぎったりして、良い印象と結びつけてあげてください。
また、点耳薬を入れている袋ともう一つ別に同じ空袋が手に入れば、それにオヤツを入れ、点耳薬袋を怖がらせないテクニックもあります。(目薬を嫌がる子も、目薬袋を用いて同様な工夫が試せます)
さらに、点耳薬が冷たい状態だと、耳に入った瞬間のヒヤッとした刺激に驚いて嫌がることがあります。使用する少し前に、容器を手で包み込むようにして人肌程度に温めておくと、受け入れてくれやすくなります。
もしも痛がって鳴いたり、激しく暴れて危険を感じたりする場合は、決して無理をせず、動物病院へ相談しましょう。
愛犬や愛猫の耳から強いにおいがしたり、真っ黒な耳垢が大量に出ていたりすると、「恥ずかしいから少しきれいにしてから連れて行こう」と考えてしまうかもしれません。
しかし、私たち獣医師からのお願いは「受診前は耳の中を掃除せず、そのままの状態で来院していただくこと」です。
なぜなら、耳の中にたまっている耳垢そのものが、外耳炎を引き起こしている原因(細菌、マラセチアという真菌、耳ダニなど)を特定するための、重要な「診断材料」だからです。
獣医師は量や色、におい、湿り気、粘り気からどのようなトラブルが起こっているかを判断します。
もし、きれいにお掃除されてから来院されると、顕微鏡で調べるためのサンプルが採取できなくなり、本来の正確な状態が分かりにくくなってしまいます。
結果として適切な診断を下すための材料が減り、治療のスタートが遅れてしまうことになりかねません。
これまでの診療では、過剰なケアにより耳奥が真っ赤なのに、表面だけピカピカに掃除された子を診たこともありました。これは外耳炎など別の深刻な疾患を疑うべきか獣医師でも判断が難しい状態です。
お耳に異常を感じたら、ぜひ汚れもそのままで診せてください。
以下のような状態は深刻な疾患も考えられます。
早めに、ぜひ「そのままの状態で」お越しください。
また、日々のケアや自己流の耳掃除に不安を感じたときも、どうぞ一人で悩まずにお気軽にご相談ください。
飼い主様への分かりやすい説明とコミュニケーションを大切にして、丁寧にアドバイスいたします。
犬や猫の耳掃除において最も大切なのは、ただ単に耳をピカピカに掃除することではなく、「お耳の環境を健やかに保ち、トラブルを悪化させないこと」にあります。良かれと思って行う毎日の綿棒や、過剰な洗浄液の乱用は、かえってデリケートな耳道を傷つけ、外耳炎を深刻化させる原因になりかねません。
大切な家族である犬や猫が、お耳の不快感から解放されて毎日を快適に過ごせるよう、正しい知識を持って見守ってあげましょう。お耳のトラブルや普段のケア方法について少しでも気になることがあれば、ぜひ当院へご相談ください。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院