2026年7月
散歩中、犬が突然後ろ足を上げ、数歩だけケンケンするように歩いたことはありませんか?
すぐに普段通りの歩き方へ戻ると「足を踏み外しただけかもしれない」「元気だから問題ないだろう」と考えてしまうこともあるでしょう。
しかし、後ろ足を一瞬上げる、スキップするように歩く、歩き方が時々おかしくなるといった動きは、膝蓋骨脱臼(パテラ)の代表的なサインです。
今回は、トイプードルやチワワ、ポメラニアンなどの小型犬でよく見られる「膝蓋骨脱臼」の特徴やグレード別の症状、放置した場合のリスクについても解説します。
膝蓋骨とは、膝の前側にある小さな骨で、一般に「膝のお皿」と呼ばれています。通常は大腿骨にある溝の中を滑るように動き、膝の曲げ伸ばしを支えています。
膝蓋骨脱臼とは、この膝蓋骨が本来の溝から内側または外側へ外れてしまう状態です。犬では内側へ外れる「膝蓋骨内方脱臼」が多く見られ、一般的に「パテラ」とも呼ばれています。
犬の膝蓋骨脱臼でよく見られるのは、歩いている途中で片方の後ろ足を浮かせ、数歩進んだあとに元へ戻す動きです。これは足を伸ばした拍子などに膝蓋骨が元の位置へ戻ることがあるためです。
また、次のような様子が表れることがあります。
軽度では痛みが目立たず、元気に走り回れる犬もいます。しかし、膝蓋骨が外れたり戻ったりしている可能性があるので「すぐ治ったから大丈夫」とは限りません。
歩き方の異変を見つけたら、様子見を続けるのではなく、早めに動物病院で状態を確認してもらいましょう。
また、飼い主様が気になった場面は、可能であればスマートフォンで動画を撮影してください。動物病院では普段通りに歩くこともあるため、ご家庭で撮影した映像が診断の参考になります。
犬の膝蓋骨脱臼には、生まれつきの骨格や成長過程が関係する「発育性」のものと、転倒や事故などをきっかけに起こる「外傷性」のものがあります。
多くは、膝蓋骨が収まる溝の浅さや、太ももからすねにかけての骨・筋肉・靱帯の並び方など複数の要因が関係しています。
膝蓋骨脱臼の小型犬の82%が発育期に脱臼が生じており、脱臼は98%は内方脱臼で、外方脱臼は2%との報告があります。
例えば、以下のような小型犬は、その体のつくりから膝蓋骨脱臼が見られやすい傾向があります。
ただし、これらの犬種が必ず発症するわけではなく、中型犬や大型犬でも起こります。
遺伝的な背景が示唆されていることもあり、若齢期から脱臼が認められる場合があります。
発育期に骨形成の異常が生じ、その結果、膝蓋骨と付着する大腿四頭筋の方向が異常になり生じるとされています。
症状がなくても、ワクチン接種や健康診断の際に膝を触診してもらうと、早期発見につながります。
軽度の膝蓋骨脱臼では、しばらく目立った変化がないケースもあります。ただし、脱臼を繰り返すと膝の軟骨に負担がかかり、炎症や変形性関節症につながる可能性があります。骨格が成長している時期には、足のねじれや変形が進むことも否定できません。
さらに、膝関節が不安定な状態が続くと、前十字靱帯など周囲の組織にも負担がかかります。
外方脱臼、特に中~大型犬の場合、重度関節炎に移行する場合があるため注意が必要です。
すべての犬に併発するわけではありませんが、急に足を着けなくなった場合や強い痛みがある場合には、膝蓋骨脱臼以外のけがや病気も含めた確認が必要です。
また、進行の速度や症状の程度には個体差があります。症状が軽いうちに状態を把握しておけば、生活上の注意点を整理し、治療を始める時期についても検討しやすくなります。
後ろ足を上げる動きが一度だけで、その後まったく異常がない場合でも、繰り返すようなら動物病院の受診をおすすめします。
特に、以下のような変化が見られたら、できるだけ速やかに受診してください。
犬の膝蓋骨脱臼は、外れやすさや元に戻せるかどうかによって、一般的にグレード1〜4に分類されます。
| グレード1 軽度の脱臼 | ・通常は膝蓋骨が正しい位置にある |
|---|---|
| グレード2 ときどき脱臼する | ・膝蓋骨が日常生活の中で外れる ・後ろ足を突然上げて歩く、いわゆる「スキップ歩行」が見られる ・足を伸ばしたり振ったりすると元に戻る(整復可能) ・症状を繰り返すことで関節炎が進行するリスクがある など |
| グレード3 常に脱臼している | ・膝蓋骨がほぼ常に外れている ・手で押すと一時的に元の位置へ戻せるが、すぐに再脱臼する(整復可能) ・歩き方が不自然になる ・膝を曲げたまま歩く ・後ろ足の筋力低下や骨の変形が見られることがある など |
| グレード4 重度の脱臼 | ・膝蓋骨が完全に外れたままで、手で押しても元の位置へ戻せない(整復不可能) ・膝を十分に伸ばせない ・後ろ足が強く曲がった状態になる ・歩行が著しく困難になる ・骨や関節の大きな変形を伴う場合がある など |
「グレード4」は最も重度で、歩行障害や骨格の変形を伴う恐れがあります。
診察では、まず症状が始まった時期や頻度、左右どちらの足を上げるか、段差や運動との関係などを確認します。歩いている様子や立ち方を観察し、膝だけでなく股関節や足首、腰などにも異常がないかを調べます。
両方の肢で脱臼が起こると、犬を後ろから見たときに、内方脱臼の姿勢はO脚になり、外方脱臼の姿勢はX脚になります。
膝蓋骨脱臼の評価で中心となるのは触診です。膝蓋骨の位置や外れやすさ、戻りやすさ、痛みの有無、関節の動く範囲、脱臼時の軟骨が擦れる捻髪音や違和感の有無などを確かめ、グレードを判定します。
必要に応じてレントゲン検査を行い、骨の形(変形や湾曲)や足全体の配列、膝関節のズレの有無、関節炎の有無を確認します。手術を検討する場合や変形が強い場合には、より詳しい画像検査が必要になることもあります。
このようにして脱臼の進行の度合いを調べ、治療の方針を立てていきます。
ただし、グレードだけで治療方針が決まるわけではありません。痛みや歩き方、年齢、骨の変形、生活への影響などを総合して判断します。
症状が軽く、歩行への影響が少ない場合や、手術が行えない場合は、以下のような保存療法を行うことがあります。
サプリメントを取り入れる場合もありますが、それだけで外れやすい骨格そのものを元に戻す治療とはなりません。
保存療法では、膝への負担を抑え、痛みや炎症を軽減しながら生活しやすい状態を保つことを目指します。
初期は鎮痛薬(NSAIDs)などと安静を組み合わせて内科治療を行います。減量で症状が消失することもあるので、肥満傾向の症例には減量も重要です。
フローリングなどの滑りやすい床での生活は脱臼を憎悪させ、症状の悪化につながることが多い為、カーペット等の滑らない床へ変更し、ジャンプ過度の回転運動などを制限します。
当院では赤外線レーザー治療も取り入れて、疼痛緩和治療を行っております。
上記のような保存療法を実施しても、脱臼の程度が強い場合、痛みや歩行異常を繰り返す場合、症状が進んでいる場合には手術を検討します。
手術では、膝蓋骨が通る溝を整えたり、膝蓋骨につながる組織の位置を調整したりして、膝蓋骨が安定して動ける状態を目指します。
同じグレードでも、適切な手術の内容や時期は犬ごとに異なります。
「早期発見・早期受診はその子に合った治療の時期や方法を検討することにつながる」という点はぜひ覚えておいてください。
犬の膝蓋骨脱臼は、初期症状が一時的で普段は元気に見えるからこそ、見過ごされやすい後ろ足のトラブルです。
「時々スキップするだけ」「すぐに足を着くから平気」と軽視せず、異変に気づいたらなるべく早めに動物病院で確認をしましょう。
かやま動物病院では、相模原市中央区の地域に根差したかかりつけ医として、犬の一般診療や外科手術に対応しています。専門的な診療が必要な場合には、連携先の高度医療施設へご紹介することも可能です。
「愛犬が後ろ足を上げる」「ケンケンする」「歩き方が時々おかしい」などわずかな変化でも遠慮なくご相談ください。
神奈川県相模原市を中心に大切なご家族の診療を行う
かやま動物病院